新型コロナウイルスの感染拡大で自粛生活が続くなか、パートナーや恋人からのDVやモラルハラスメントに悩む人が増えており、そこから破局・離婚につながるケースも少なくないという。社会的にはエリートと呼ばれる夫が、家庭ではとんでもないモラハラ夫だったりするケースもある。実際に、そうしたエリート夫のモラハラ言動の末に、離婚に至った夫婦の実例を紹介しよう。
『誰も教えてくれなかった「離婚」しないための「結婚」の基本』の著者で、年間300件以上の離婚相談を受ける弁護士の後藤千絵さんが語る。
「モラルハラスメントとは、言葉や態度で巧妙に相手の人格を侵害し、萎縮させることで相手を意のままに操ること。簡単に言えば、『精神的な嫌がらせ』を毎日のようにしてくるという状態です。近年、特にパートナーからのモラハラが離婚原因として多いと感じます。エリートと言われる人ほどストレスが溜まり、モラハラをしやすい傾向があるように思います」
実際に後藤さんのもとに相談に訪れたA子さん(32才)の夫(34才)も、その一人だった。A子さんが語る。
「夫とは東京大学のテニスサークルで出会いました。私は東北の田舎の方の出身で、中堅私立大学に入りましたが、夫は生まれも育ちも東京で、中学・高校も名の知れた私立の進学校出身のエリート。出会った時から洗練された大人の魅力があって、サークルの中心的な存在でした。おしゃれなレストランや隠れ家的なバーにも詳しくて、話も上手なので当然女性に人気があったのですが、なぜか私に交際を申し込んでくれたんです。当時の私はそれだけでもう有頂天でした。
友人からは羨ましがられ、若かった私はすっかり彼との交際にハマっていきました。彼はサークルやゼミ仲間との集まりなどで忙しい人だったので、デートはいつも彼のスケジュールを優先。夜中に突然呼び出されても、彼に必要とされるのが嬉しくて友達との約束があっても彼に会いに行っていました」
当時は“都合の良い女”として扱われていることに気付かなかったというA子さん。ところが大学卒業目前の冬、A子さんの妊娠が発覚した。
「妊娠を告げた時の彼の顔は、今でも忘れられません。驚くでも困るでもなく、淡々としていたというか、全く喜んではくれませんでした。でも、既に官庁への就職が決まっていたからか、結婚してくれることになったんです。彼は大学入学時からキャリア官僚志望で、彼の家はもちろん親戚も官庁に勤めている人が多かったので、世間体も気にしたのでしょう。妊娠をあまり喜んでいない様子に不安はありましたが、私としては結婚してくれて、本当にほっとしたのを覚えています」(A子さん・以下同)
新居は、夫の実家からの援助もあって、通勤に便利な都心にマンションを購入し、高価な家具も全て揃えてもらったという。A子さんも建設会社に内定が決まっていたが、夫を支えるため家庭に入り、ほどなくして無事女の子が産まれた。
「しばらくは育児に追われながら暮らしていたのですが、SNSなどで社会人になった友人の楽しそうな投稿を見る度に、少しずつ嫉妬にかられるようになったんです。友人には、『専業主婦でエリートの旦那がいて羨ましい』と言われますが、本心では憐れまれているような気がして……。もちろん娘は可愛いです。でも、ママ友は歳が離れている人が多くて話が合わないし、実家にも簡単に帰れないので相談相手もいない。『今のままで良いのかな?』と思うようになっていきました」
娘が1才になった頃、A子さんは「働きたい」と夫に伝えた。
「近くに1才から預かってくれる保育園もあったので、今からキャリアを積んでも遅くないと思ったんです。とにかく一度はどこかに就職したいと夫に相談しました。すると夫は、顔を真っ赤にしてこう言いました。『ふざけるなよ! なんでお前なんかと結婚したと思ってんだよ。子供を堕ろしても良かったけど、世間体もあるしって親が言うから、きちんと籍を入れて面倒見てやってんのに、何が不満なんだよ』って、怒鳴り散らしたんです」
続く
以下ソース
https://www.news-postseven.com/archives/20210716_1676557.html
実は、夫がA子さんに声を荒らげるのはこれが初めてではなかった。学生時代、夫は誰に対しても優しいと周りから尊敬される存在だったが、結婚するとその印象は大きく裏切られた。毎日早朝に出社し深夜に帰宅する仕事のストレスからか、育児に追われるA子さんに優しい言葉をかけることはほとんどなく、顔を合わせる少しの時間も嫌悪感を露わにするようになっていた。
「夫が少しでも癒されればと、最初の頃は娘の写真を送ったり、日々の成長を報告したりしていたのですが、大きな声で『報告とかいいから。主婦は良いよな、3食昼寝付きで』、『そんなに暇なの?』と迷惑そうな顔で言われることもしばしばありました」
働きたいと告げてからは、A子さんへのモラハラはさらに激化。A子さんが何も言っていない時でも、酒に酔っては「1回死ねば?」、「おまえなんて生きる価値無いわ」などと絡むようになった。一度こうなってからは、ダムが決壊するように夫のモラハラは勢いを増し、夕食のサバの塩焼きに少し火が通っていなかっただけで「俺を食中毒で殺す気か!」、「俺はお前と違って100倍の価値があるんだよ!」と激昂し、娘の前で皿ごとひっくり返したこともあったという。そんな日々が7年以上も続き、いよいよ耐え切れなくなって後藤さんのもとを訪ねたのだ。A子さんが続ける。
「今思うと、学生時代に付き合っていた頃にも、その片鱗はありました。待ち合わせの時間に遅れるとあからさまに不機嫌な態度をされましたし、レストランでのお店の人に対する態度も酷かった。“自分より下”と判断した人への態度が悪いというか……。私に対しても、言うことを聞いて当然、という思いがあったんでしょうね。
それに、交際中も、夫は会話のキャッチボールが全く出来ない人でした。一旦相手の話を聞くふりはするのですが、結局全て自分の話にすり替えて、最後は自慢話で終わらせるのです。当時は『頭の良い人ってこんなもんなのかな』と深く気に留めていなかったのですが、やはり少し異常だったんだと思います」
後藤さんが指摘する。
「モラハラをする人には際立った特徴がいくつかあります。分かりやすいのが、自分より立場が弱いと判断した人に対する態度です。A子さんの夫のように店員に横柄な振る舞いをするような人は、後々一番身近にいる人に対して『誰のおかげで生活できていると思ってるんだ?』といった人格否定発言をする傾向が強いです。
一方で、外面が良く友人知人や職場の人達にはそういう顔は見せないため、交際中に気付きにくいのも事実です。あからさまな態度ではなくても、例えば普段の会話の中で『同期の中で、俺が一番良いポジションにいる』、『あいつの彼女、全然可愛くないよな』といった他人との比較を意識した発言が頻繁に続くなら、注意した方が良いでしょう」
相手の話に興味が無いのも、モラハラをする人の特徴だという。
「モラハラをする人は、究極的に大事なのは自分であって、自分のキャリアや趣味を優先し、家族は二の次という人が多いです。思春期に本来学ぶべき人の気持ちに配慮する機会が無く、時間を全て受験勉強に費やし、他人より優位に立つことで自尊心を保ってきたタイプのエリートに多いと言えます。
また、親から十分な愛情を受けていない人や、スパルタ教育の中で良い子を演じてきた人も、モラハラをする傾向にあります。A子さんの夫の母親は、子供を中高一貫の有名中学に入れようとスパルタ教育を行い、小学生の子供の手に鉛筆を突き刺しながら勉強をさせていたそうです。
スパルタ教育というのは、真に子供のためというよりは親自身のため、親同士の代理戦争のためというケースも多く、子供に悪影響なのは言うまでもありません。感情を抑えて親の言う通りに生きてきた子供は、いざ大人になって親のいない社会や空間でストレスを感じると、自らのネガティブな感情をコントロールできず、ストレスのはけ口を身近な人に向けることでしか解消できなくなることもあるのです」(後藤さん)
続く