オナニーの最中に事故死することを学術用語では「自己性愛死(オートエロティック・デス)」という。
中年の白人男性に多く見られる死因で、性的な快感を求めて低酸素状態を実現する過程で命を落とす。
首吊り以外にも、機械を用いた窒息、感電、化学的な方法など、脳の酸素濃度を下げるさまざまな方法がある。死を予防するための措置をとっていても、それがうまく機能せずに意識を失い、最終的に死に至ることがある。
自己性愛的窒息死は、古代から知られている。例えば、人類学者は、ケルト人や南米人、イヌイット、東南アジア人の一部では、オナニー中の窒息死が一般的であったことを報告する。
中世のイギリスでは「Hanged Men’s Club」というクラブが開かれていて、紳士たちが娼婦を使って窒息による性的欲求を満たしていたという。
低酸素状態で性的興奮が生じるメカニズムは、脳内酸素の減少により、幻覚状態や陶酔状態が誘発され、それに伴って性的反応が増加するというものである。
低酸素状態では、海馬や大脳辺縁系の中枢にある性欲抑制領域が非常に早い段階で変化する。
また、陰茎の勃起と射精に関与する交感神経細胞は、機械的・化学的・電気的な刺激によって活性化される。
低酸素状態の実現には、首絞め、酸素欠乏、気道閉塞、胸部圧迫の4つのメカニズムが関与する。
これらを実践する者は、最大の快感を得るために、これら4つのメカニズムを連携させようとして、新しい方法を試しがちである。
その結果、完全な窒息状態に陥って死に至るリスクが高まる。
医学誌「Romanian Journal of Legal Medicine (RJLM)」に2009年9月、首吊りオナニーの最中に死亡した35歳男性の事例を報告する論文が掲載された。
男性の遺体は寝室で発見された。
空手の帯を使った首吊り状態で天井からぶら下がっており、頸椎の周りに青いタオルが巻かれていた。
男性の目の前には鏡があり、横にはスタンバイ状態のパソコンが置かれていた。
男性は全裸で、腐敗の初期段階にあった。
パソコンを起動すると、画面にはポルノ写真のスライドショーが表示された。
男性の背後のビニール袋には、靴下に包まれた金属製の香水のボトルが入っていた。
ビニール袋には排泄物の痕跡があり、肛門に挿入されていたと見られる。
衣服はきれいに整えられており、家の中は清潔で、不法侵入の痕跡はなかった。
翌日行われた検視の結果、首の周りには、前方から後方に向かってやや斜めに索痕(首が絞められた痕)が確認された。
索痕は後方ほど顕著で、長さは最大で約2.1センチ、幅は最大で約0.4センチだった。
淡紅色になっていて、頸筋出血、皮下の打撲や出血、舌骨や喉頭軟骨の骨折などは観られなかった。
右眼結膜、外顆、肺表面に点状出血があり、両肺は膨張してうっ血していた。
心臓は軽度の初期硬化を起こしていて、空洞には黒っぽく変色した血液しか残っていなかった。
肛門括約筋は拡張し、失禁していた。
男性はごく普通の生活を送っていたようで、フェティシズムやホモセクシャルなどの傾向は知られていなかった。彼の死因は首吊りの窒息による急性呼吸不全と特定された。
先行研究によると、自己性愛的窒息死の判定には、孤立した場所、単独行動、過去の自己性愛的活動の証拠、明らかに自殺の意図がないことの4つの特徴が必要だという。今回の事例ではこれら4つがすべて揃っていた。
事故現場には、性的玩具やポルノ写真、映像、女性の服などがよく見られ、性的興奮を高めるための手段としても使われている。
同じ目的で精力剤を使用したという報告もある。
今回の事例では、マゾヒスティックでホモセクシャルなおもちゃ(香水の入ったボトルを靴下で包み、ビニール袋に入れて肛門に挿入したもの)を、性的快感を高める方法として使用していた。
家族は男性の性癖を知らなかったという。
自己性愛的窒息死の事例では、事件性の有無を明確にするため、通常の首吊り自殺よりも詳細な調査が求められる。
https://tocana.jp/2021/11/post_224751_entry.html
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